経年変化

静岡手創り市2020春は「経年変化」「熟成」がテーマでした。

 

経年変化

 

革を扱う私からしてみれば、

自分の口からもよく発していた、

ごくごく身近な言葉でした。

 

でも、

 

静岡手創り市が行った経年変化に対するアンケート。

http://shizuoka-info.jugem.jp/?eid=1476

 

経年変化、という言葉に対して、

抱くイメージは人それぞれで、、、

このことはとても衝撃的でした。

 

経年変化という言葉を、

私はいい意味でしか捉えてこなかったから、、、

 

そこから、ふと、

フィレンツェで食事を共にした靴職人の方の言葉を思い出しました。

 

「私は使いこんだ風に見せる仕上げは好きじゃない。

 使っていって、はじめて出てくるものだから。」

 

その場にいたのは、鞄職人や修復士など

みんな手の仕事をされている方。

私が持っていた、その時試作としてとりくんでいた、

いろいろな色を重ね染めアンティーク風に見立てたカードケースに

興味津々に話を交わしていたときに出てきた言葉でした。

 

この言葉はショックでしたが、

自分の意見をストレートに言うその姿が、

私にはカッコよくて眩しくて。

そして周りもそれを受け入れ、自分はこう思う、とさらに議論を深めていく。

 

異国の地で、

自分の手の仕事で、地に足をつけている人たち。

なんて、カッコいいのだろう。

そして自分と違う意見も受け入れる心。

 

ガツン、と私の心の中に残って、

そこから、

なんとなくアンティーク風に色を重ね染めることをやめてしまっていたのです。

左が上のエピソード時に私が持っていた、カードケース。

3年ほど使用しているもので、

当時よりも、色彩がなじんできているような気がします。

 

そして右側が、

今回、静岡手創り市に向けて取り組んでいた、

経年変化を模して染めたカードケース。

 

3年前のもの と 今のもの。

 

使用している革も、染料も、色の出し方も違うし、

木型も少し変わっています。

(すこしふっくらと柔らかい形になっています。)

 

今回の静岡手創り市で、

この経年変化を模して染めること、に取り組むかどうか、

とても悩みました。

 

安易すぎやしないだろうか、と。

 

悩んで悩んで、

 

もう応募に間に合わないっ、てなるぎりぎりまで作ることをためらって、

 

どちらにころぶかわからないけど、

やってみて生まれてきたものを見てから考えようと、

色を重ね染めてゆきました。

 

 

出来上がったものを見て、

 

これでいいのかもしれない。そう思いました。

 

 

所詮、新しいもの。

ここから、使い手に渡って、その手の中で時が上書きされてゆくのだから。

ならば、使う人の手と時によって、

本当の変化へと誘われることを切に願いながら、

生み出そう。

 

そう心に決めて、制作を続けていました。

 

だから、

 

どうしても静岡のみなさんにご覧いただきたかった。

そして、お顔を合わせながら、いろんなご意見や感想を聞きたかった。

 

このことは、ちょっと先の楽しみとして、

このカードケースとともに残しておきます。

 

静岡の、あの風景の中で、

このカードケースを囲みながらみなさんとお話できるように、

次の応募もがんばります。

私にとっての「これぞ、まさに経年変化!」の写真。

 

お知り合いの画家さんを訪ねて行った際に、

使ってますよ~と嬉しそうに見せてくれたときのもの。

 

彼女の手の中で時を纏っているかのような革のものたち。

 

重ねてきた日々が目に浮かぶようで、

嬉しくって胸がいっぱいになりました。

 

静岡では、こんな嬉しい再会もあるかなぁと楽しみにしていました。

これは

左が私が愛用しているコインケース(約10か月ほど)、

右は新しいもの。

 

染色していない革そのものの色なので、

一番変化が早い色です。

 

今回の静岡手創り市では、

経年変化がわかりやすいように

私が日ごろ使っているものと新しい作品を並べて展示をする予定でした。

1年前の護国神社。

 

きっと、この場所は変わらず待っていてくれる、

そう信じて、次の季節にむかいたいと思います。